このところ、「浪華の翔風」文庫化のための作業をしていました。なんといってもデビュー作なので、いろいろと……本当にいろいろと、思うことがあります。これを書いていた頃の私は、その後に経験する良いことも悪いことも全部、想像すらしていなかったなあ。
近頃、自分の昔の荷物を整理していたりするのですが。昔のファイルのなかから(紙のファイルです、パソコン上のファイルではなく)、「浪華の翔風」の草稿だの、「洪庵シリーズ」のゲラだのが出てきたりして、そのたびにしみじみと思い出に浸ってしまいます。何もかもみな懐かしい。
「浪華の翔風」は、十三年前に出版した話。その後、「恥ずかしくて読み返したくない」と思っていた時期もありましたし、「何が何でも、あれの続編を書くぞ-」と思っていた時期もありました。洪庵シリーズが「浪花の華」になったあとには、またいろいろと複雑で特別な思いがあったし。
めぐりめぐって、今は、「あー、続編書きたい!」と思っています。「浪華の翔風」は、同月に出る双葉文庫の左近さん外伝を含めても、〈在天別流〉シリーズでいちばん後にくる話になります。だからこそ、続きを書きたいなあ。
今は、世の中、とても大変な時期で。
個人的にも、来し方行く末を考えなければならない時期で。
そんななかで、物書きとして強く強く感じていることは、「いつか書けたらいいな」なんて思ってたってしょうがない、ということです。
いつか書きたいものがあるなら、今、書けばいいし、書いた方がいい。明日、我が身に何かが起きるとしたら、書ききれなくていちばん悔やむのは何か。考えながら書いていきます、これから。私は去年から、人生を何十年単位で考えるのはやめました。何十年ぶんかの自分の未来を思い浮かべることをしなくなったら、逆に、目の前のことを前よりずっと切実に感じられるようになった気がします。
デビュー作の思い出に酔っている(そして、少しお酒にも酔っている)今、勢いで言わせてください。
「浪華の翔風」の後に続く話は、必ず書きます。これは私にとって特別な話だから、必ず、書きます。ただ書けりゃいいってもんじゃないから、他の誰よりも自分自身が納得のできる形で、書いてみせます。「え、あれって別に続編なくていいじゃん、一話で完結してるじゃん」と思われるむきもあろうかと思いますが、今、私は、あの話を書いた頃に考えていたあの町と彼ら彼女らの歴史を、やっぱりきっちり、物語に書いておきたいのです。