双葉文庫の新刊「遠き祈り 左近・浪華の事件帳」です。
発売は、十日くらいだそうです。

表紙の麗しい左近さんは、「洪庵シリーズ」や幻冬舎の「天文御用十一屋」でもお世話になった、村田涼平さんの手によるものです。後ろには四天王寺の五重塔と、雲にかすむ月。月の名を持つ頭目のイメージだそうで、とても素敵。

帯には「新シリーズ」と書いてありますが、作者としては、「新」というか、「緒方洪庵 浪華の事件帳」の外伝という位置づけで書いたものです(なので、こういうひねりのないタイトルになっております)。
文政期の〈在天別流〉の、というより、左近の、物語です。

「浪華の翔風」のあとがきでも少し触れたんですが。文政期の〈在天〉組というのは(章や赤穂屋など周辺キャラ含む)、十三年前にはすでにできあがっていたキャラクターです。物語も、そう。「浪華の翔風」を書いた時点で決まっていたものは、年数を経た今となっても変えられません。変えるとすべての土台が壊れてしまう。デビュー作の「文庫化」にあたっても、外伝の「文庫シリーズ化」にあたっても、それに合わせてかつて考えたものを大きく変更するということができないのです。……という前提のもと、いつもとは少し違う気持ちで書いた「外伝」シリーズです。肩の力が抜けているのか、逆に肩に力が入っているのか、判りませんけども。

舞台は文政十年。主役が左近、サブに若狭と赤穂屋、それから弓月。とある蘭学者もちらりと登場したりしますが、まあ遊び心で(笑)。鳥影社から出してもらったときから決めてはあったんだけど書けなかったこと、考えてはあったけど活字で書くつもりはなかったことなどを、あれこでちりばめて書いたものです。たとえば、〈別流〉さんたちがどこで武芸の稽古してるのか等、「このエピソードを活字にすることがあるとは思わんかった」と思いながら書いておりました。楽しかったです、とっても。

さて。
やっと、十一ヶ月ぶりに、新刊が出せます。
一方で、間が空いてしまっているシリーズもあって、書けない期間があったり、スケジュールの調整がうまくできなかったりするのが辛いです。すみません。書きたい話があって、書かせていただける場所がある――それがどんなに幸せなことか判っているのに、追いつかない。情けないです。商業出版で依頼をいただけるようになってから、自分なりに必死にがんばってペースを保ってきたのですが。この半年ほどはさすがに個人的な事情で無理で、その積み残しがそのまま先送りになってしまっています。このさき半年ほども、バタバタしそう。申し訳ないです。担当さんが優しく「いまは焦らずに」と言ってくださる方ばかりなので、甘えてしまっているのです。すみません。

でも。
やっと一冊書けたよ。
そう伝えたいひとがいます。

先日、たまたまケーブルテレビで見かけて、つい最後まで見てしまった古い映画「復活の日」。その、鍵となる台詞があります。

「ライフ イズ ワンダフル」。

今だからこそ、その言葉を言えるひとになりたいです。
今は、まだ、しらふでは言えないとしても(といいつつ、私、一合でつぶれるほど弱いので、絵になるほど飲んでません。左近さんほど飲めたらいいのにな・笑)。

ライフ イズ ワンダフル。
人生は、いいものだ。