舞台「未来記の番人」感想。

今更と言われそうでも書きます!

続いては、他のキャストの方々について。

 

紅羽。キャスティングを知り、惣田紗莉渚さんがどんな方なのか動画などをチェックしてみて、こんな都会的な女性が野生児の紅羽をどんなふうに?とびっくりしていたのですが、舞台の上にあらわれた紅羽は、聖なる少女でありながらも野生児的で、五重塔の登場シーンの清らさかとか、千里丸に告白されてぶっきらぼうに言う「知らん、わからん!」の素朴さとか、バトルシーンの迫力とか、ラストの「いってきまーす!」のかわいらしさとか、いろんな顔をみせてくれて、とても素敵でした。歌もダンスも、とてもきれいで。初見で、その踊る姿の美しさに惹かれて気になって調べたら、ずっとバレエをされてたとかで、なるほどーと納得しました。

そして、前にも書きましたが。ゲネプロを見たときに、「ああ私が書きたかったのこれだ」と思いだしたもの。未来記の不思議、住友銅吹所の魅力、そのほか、この時代と場所で書きたいことはいろいろあったけど、それとはまったくちがうところで、作家になったからには一度は書いておきたかった「超能力美少女」。これだよこれー、と客席で、「紅い牙 ブルーソネット」に夢中だった十代のころの私の魂が歓喜してました。戦う紅羽、手練れの男たちをなぎ倒していく姿、かっこよかった! 泉屋銅吹所バトルだったか、舞台の中央で、手のひらを合わせ、正面を見すえる、あのシーン特に好きだった!

最後、千里丸と手を取り合いながらのバトル。その場に出てくるときの「千里丸!」という叫び。異能だけでなく、全身で千里丸と一緒に戦おうとする。そのりりしさから一転して、旅立ちの場面での、かわいらしさ。大切なものをなくしつづけてきた千里丸の心に、あたたかな灯をともす存在に、なっていくんでしょうね。舞台版の二人の未来にも、幸あれと祈ります。

巽。最大の見せ場は、一幕のラストだと思うのですが。能力発動後のカッコよさはもちろんのこと、あの泉屋銅吹き所でのシーン、千里丸が紅羽を守ろうとしているのが見えてきたあたりから、巽は異能を発動させるタイミングをはかりはじめているんですよね。私にはそう見えました。左右を見、間合いをはかってるっぽくて。上手端の席から見たときにそれに気づきまして、めちゃくちゃワクワクしました。超能力者が自分の最大の切り札を出す瞬間をはかっている。でも、ドラマとかアニメだったら、そこは描かれない。「オン、キリク、ギャクウン、ソワカ」で場の視線を集めたあとしか、たぶん巽は描かれない。でも、舞台だと見えるんですよ、その準備をしている、じわじわと緊迫していく貴重な姿が。千里丸と蔵人の影に隠れてますが、見ようと思えば見える。大好きでした、あの流れ。

そして、あれだけのことがあったのに最後まで泉屋を見限らず、ちゃんと和解する。ホンマに舞台版の巽、ええ子です。原作と違い、巽は大坂に残るので、銅吹き職人として腕をみがき、大坂で知る人ぞ知る存在になっていきそう。いつまでも泉屋にいて、井桁のマークがあふれる現代につながるような初期住友の繁栄を、旦那様のホンモノの右腕として、がっつり支える男になってくれ。

アクロバットもお見事でした。初めて見たとき、この巽めっちゃ飛ぶ、めっちゃ回る!とビックリ。さらっとされてましたけど、すごいですよね。アドリブのシーンも、毎回、おもしろかった。あるときは、劇場のおみやげの宣伝。あるときは、地元の名物の宣伝。日替わりの楽しみを、工夫をこらして作ってくれました。それから、冨岡健翔さん、天草四郎と二役されていること、ゲネプロを見たときにはわかりませんで、あとからパンフレット見て、これまたビックリしました。戦う天草四郎も、とてもかっこよかったです!

蔵人。大川良太郎さんは、前の舞台「蘭」にも出演してくださっていた方。だけど、今回は、ガチの悪役。いやもうめちゃくちゃかっこよかったですね! 士郎と千里丸が二人がかりでも勝てない、その強さが、動きの端々に滲み出ていて、憎たらしいしふてぶてしいし、「狗は狗らしく野垂れ死ね!」とか、これぞ悪役というセリフなのにそんなカッコいいってありかなと。刀さばきが綺麗だし、見得の切り方にはもう惚れ惚れするし、蔵人に関しては、もうただただカッコよかった!

見に来てくれた友達の一人に朝ドラ大好きな子がいたんですが、朝ドラに出たはるでって見たあとで言っても信じなかったくらい別人でしたし、「蘭」の若狭とも別人で。これ両方の原作者だから妄想してもいいよねって話ですみませんが、「蘭」の若狭も、あの舞台のなかでは常に余裕を見せて笑いをとったりしていたけど、強敵とガチのバトルするときはあんなふうに狂気的に容赦ない男なんじゃないかと思うと、それもまた(勝手に)めちゃくちゃ萌えた。

この舞台、時代劇キャラとして、いちばんストレートにカッコよかったのは、いっさいブレることなく己の信念のもとに刀を振るい続けた蔵人だと私は思ってまして、私が書いた蔵人は「カッコいい」成分は特にないキャラだったので、すごく得した気がしています!

桜。松村沙瑛子さんが演じられると知ったとき「え、せっかくおあきちゃんが(「蘭」の。かわいかったのです)出てくれるのに、すぐ死んじゃう、もったいなすぎる!」と思ったのですが、思っていたよりも出番が多くてうれしかった。千里丸とのダンスがとてもかっこよく、きれいで。あのはりつめて、しなやかな身体の動きは、まさに忍びの女の美しさという感じ。「桜」以外の、紅羽の風だったり、巽&千里丸探索シーンにあらわれる不思議なご一行さまだったりするときも、手の先、足の先までキレイ~と見入っておりました。

千里丸と士郎左の仲がこじれていくのは桜の存在があってこそのことで、だからこそ、オープニングで里の衆五人が桜を中心に笑い合う、その一瞬が切なくて。家族だったんだよね、みんな。最後に島原で士郎左の魂と再会できていたらいいなと思う、素敵な笑顔でした。

泉屋理兵衛さん。曾我廼家寛太郎さんの、ダンスとバトルな舞台の上に松竹新喜劇の風を吹かせる存在感がすごい。イヤな感じの金持ちから、改心してまっとうな大商人へ。巽から渡された約束の文を手に、自らの過ちに気づき、無言で天を仰ぐ。そのシーンの良さはもちろんなんですが、私、一幕ラストの銅吹き所で、「泉屋ばんざーい!」と職人たちにたたえられ、得意そうな泉屋さんが、実は好きでした。いや、やっぱり、あんだけ職人にしたわれるっていうのは、富の独占はしてたかもしれないけど、店の者にはちゃんとよくしていたからだと思うんですよね。その自信ありげな感じが、浪華一の商人や!という感じで、いいなあああと。

私が大坂を書くときにいつも思っているのは、豪商は金の力で権力と戦える、そういう存在が身分でがんじがらめの江戸時代にいかに大きかったか、ということ。大坂の豪商、大好きなんです。舞台上で豪商のいろんな顔を見られて、とてもうれしかったです。

道啓さま。おおお子供のころからテレビでおなじみの勝野洋さん~!という喜びがまずありました、舞台上で初めてお姿を見たとき。いやもういろんなドラマで数え切れないほど見てきた方ですし、まさかのホンモノ~、って感じで。特に、柳生十兵衛をされていたイメージが強いんです、私は。なので、きっと強い道啓さまだぞ、と、見る前から勝手に思ってました。

で、期待通りというか期待以上に、「仏敵退散!」が、もう、こういう「仏敵退散」を待っていました!という迫力で、まさに「降魔」という感じ。「鷹」が出ない分、聖徳太子を身に憑依させてる道啓さま、歩くだけで、徳と法力のレベル高いお坊さんなんだなとわかるオーラがあって。全編そんな感じかと思いきや、ラストシーンでいきなりくだけて、紅羽をからかいはじめるおちゃめさが、とても素敵。紅羽の養父として、大事に可愛がって育ててきたんだなと感じられるシーンで、大好きでした。

甚啓さま。武闘派僧侶!という存在を書きたかったのです。戦国の世をまだ少し引きずっている時代の、寺院でありながら、仏法を守るためなら武力だって使う覚悟のある、そういう寺院を。なので、山本健翔さん演ずるあの甚啓さまのかもしだす、合掌からの拳法炸裂、みたいな、いつだって戦う覚悟はあるぞ、というお坊様のかっこよさを見たときに、これだよこれを書きたかったんだよリアルに見られるなんてー!と感動。

道啓さまとそろったときの、師弟(なのかな。兄弟弟子くらいかな)の雰囲気も好きで。全体を通じて、未来記にいちばん苦労させられてる方で、たぶん、ホンモノの未来記をあとからこっそりまた隠し直している(公式見解というわけじゃないです、燃えたのがホンモノかどうかの。そうかもなー、と……)。

天海大僧正。いやもう最後の「未来を我が手に!」の、これぞラスボス!という死に方のかっこよさ! 炎に飲まれていく姿は、今でも目に浮かびます。未来記の千年の歴史とともに滅ぶ。あのシーンを思うと、やっぱり燃えたのはホンモノの未来記かなと思います。

そして、笠原章さんは、全体の殺陣を作ってくださいまして。私、この舞台の、これぞチャンバラという動きの殺陣が大好きでした。殺陣にもいろいろあると思いますが、私が思う、「大好きな時代劇のチャンバラ」がこの舞台にはあって。子どものころに見て「かっこいい!」と思って、それで時代小説を書くようになった、そういう「チャンバラ」を、たっぷりと見せてくださった。本当に幸せでした。

ご出演のかなわなかった渋谷天外さんが、先代泉屋の声として出てくださった、その演出もうれしかったです。

あと、風エイトと名づけられた、いろんな場面で登場してくださった方々。

銅吹所の職人たちの団結を感じるシーンや、武闘派僧侶のあらぶる寺院の雰囲気や、紅羽の激しくも美しいバトル、そして、千里丸や士郎の味方であり敵である、里の衆。約束の文の、南蛮絞りの図解も。そのすべてを、姿を替え、雰囲気を替え、動きを替えて、演じてくださいました。その「芸」の見事さに魅せられました。アクロバットもすごかった。役者さんて、演劇って、すごいなあ。

 

(後一回くらい、全体のこととか、そのほかいろいろかけたらいいなと。……今になってどんだけ書くねんという感じですが、私にとっては、ゲネプロ見学の許可が出て急遽PCR検査に飛んでいったのとかだって、わすれられない思い出なのです、書いておきたい)