「烏剌奴斯(ウラヌス)の闇」の執筆裏話、ちょっと書いてみます。
ストーリーのネタバレはないですが、ネタのネタバレはあります(前に書いた、稲村三伯が出てくる……等々といった感じの)。

作中で出てくる「エレキテル」。
この時代、注目されていた新しいモノです。作中に使ったネタは、「エレキテル究理原」という、蘭学者・橋本曇斎の著作から引っ張ってきたもの(橋本曇斎は、宗さんのモデルになった人物です)。
この本、復刻版が出版されていまして、中を読んでいると、なかなか面白い。エレキテルを使って、こんな面白い実験ができるよー、ということがアレコレ書かれています。有名なところでは、子供たち大勢に手を繋がせて、弱い電流を流して、びりびりっ、とさせる、現代でもあるヤツですね。こんな感じ↓で、襖の向こうにエレキテルを隠しておいて、吃驚させるといいよ、と。

ただ、エレキテルそのものについては、まだまだ研究途上であって、おかしなこともいろいろ書いています。電気を通すもの、通さないものを列挙しているのですが、通さないものに「木材、硝子、石」などに続けて、「猫、狗(いぬ)」があがっていまして、その理由として、これらはすべて内部に電気に似た力を含んでいるから電気を避けるのだ、猫や犬の目が光るのはそのためだ……と。

この時代の科学というのは、びっくりするほど進んでいる面と、「あらら」と思う面が両方あります。電気はまだまだ未知のものだった模様。だからこそ、それを研究するということは、画期的だったのでしょう。

さて、この「エレキテル究理原」ですが、個人的に、ちょっと思い入れのある本です。なんでかといいますと、この本、禁書なんです。

ちょっと細かい話になりますが。当時の大坂では、書物を出版する際には、大坂本屋仲間(大坂の出版協会みたいなもの)→三郷惣年寄→大坂町奉行所寺社方、という三段階の検閲をクリアしなければならなかったのです。
ところがこの「エレキテル究理原」、検閲をなかなかクリアできない。
当時の奉行所は蘭学に警戒心がありましたし、そうなると、出版協会も「御上を刺激したくないし、儂らで出版不可ってことにしとこか」って、蘭学の書物全般に自主規制をかけて、協会の許可を出し渋ったりする。

その手のやりとりが、当時の出版協会の記録=「大坂本屋仲間記録・出勤帳」という日誌に、いろいろ出てくるのです(「洪庵」シリーズで書いた「禁書売り」のネタ元も、このあたりです)。
私、実は、学生~大学院生時代に、この大坂の出版協会について研究をしていたため、くだんの「大坂本屋仲間記録・出勤帳」という、明和~明治まで書き継がれた日誌を、飽きるほど何度も何度も読んだのです。なので「エレキテル究理原」と聞くだけで、あ-、検閲バトルしてたアレだわ、と懐かしいのです。
今回の話を書くにあたって、復刻版を購入して読んでみて、いろいろ感慨深いものがありました。検閲にもめげずに後世に残そうと橋本曇斎が努力したおかげで、こうして私の手にも届くんだなあ、と。

以上、「エレキテル」についての小ネタでございました。

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