ある論文集をいただきました。日本史関連の。知り合いの研究者さんが編集されたものです。その論文集に、原稿を寄せるはずだったけど、書けなかったひとがいます。そのひとの時間が続けば書くはずだった、頭のなかにあったモノ。それが書けなくなる日は、物書きにとって「いつか来る日」ではあるのです。人間である限り。早すぎたり、突然だったり、まあ平均的だったりと、個人差はあるけれど。

「書かれなかったもの」について考えていると、ふと、「すでに書かれたもの」のことも頭に浮かびました。永遠だとは言わない。書籍の寿命はそんなに長くはない。でも、書いた本人の生死とは関係のない長さで、消えることも変質することもなく、書かれたものはそこにあり続ける。生きた証として。幸せなことです、のこされた者にとっても。……何を今さらって言われそうだけれど、論文集の重みを手のひらに感じながら、改めて思ったのでした。

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