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最後に、「今から、ひとネタ、並べるぞ!」……というわけで、小ネタ、並べていきます。
感想となると、よかった、大好きだ、という話になりまして、それを私が、これ以上、個々のシーンについてくどくど言うのもどうなのかなと思いますので、裏話的なものを中心に書きます。
なので、すみません、このシーンよかったー!と具体的に書いていないことがたくさんありますが、本当に、全部、好きなシーンだったので。
語っていいなら、台本片手に、「ここがこうであそこがああで……」っていくらでも話せますけど、何日たっても終わらない(笑)。
 
冒頭の在天口上。左近の舞は、装束はオリジナルですが、振りは、四天王寺舞楽のもの。「洪庵シリーズ」を書いていたころ、私は、四天王寺楽所雅亮会雅楽練習所に通って笙を習っていたんですが、そのときにお世話になり、ドラマ版のときに雅楽考証も担当していただいた方が、なんと、北翔さんの宝塚時代からの笛の師匠。思わぬ御縁がつながって、なんだか運命を感じました。ナマの龍笛演奏、毎回、素敵でした。
 
北翔さんの龍笛とか、扇治郎さんの舞とか、そういう「芸」が隠し球的に、でも隠されず、惜しみなくどんどん出てくるところが、この舞台、本当にすごいと思います。一幕、あれだけコミカルな動きに終始していた章の、いきなりのあの舞。章の内面の深さ、強さみたいなものが、言葉にしなくても出てくる場面。小説じゃ書けないよなあ、と毎回、思っていました。「芸」といえば、お定先生の怒濤の笑いもそのひとつで、「男でもない、女でもない〜」のシーンなど、毎回、何が出てくるか、本当に楽しみでした。
 
原作者として、舞台化されたからこそわかった、大きな失敗というか、最大の後悔がございまして。「なんで、主役が章なのに、ゲストキャラの女の子を、おあきって名前にしてしまったのか。めちゃくちゃかぶっとるやないかい!」。もう、毎回、毎回、茶店で二人が自己紹介するたびに、「他の名前にしたらよかった……」と思ってました。すみません。プロデューサーさん、演出家さんにもそう言ったら、「丁稚のあきどんが出てきて、余計ややこしくなりますしね(笑)」とトドメさされました。あああ。字面だと、漢字と仮名だから、そんなにややこしくなかったと思うんですよ……。
 
耕介おあきがらみで、言っちゃっていいのか迷ってたんですが、耕介くんご本人のブログ等では書かれなかったようなので、もったいないので、私が書かせていただきます。耕介役の上田さん、最後に出てくる赤ちゃんに、名前つけてくれてたのです。「おあき」はひらがな表記だけど、妹が「おゆき」なので、きっと季節にちなんだ名前なんだろうから、漢字で書けば「秋」のはず、だから、子供には、両親から一字ずつとって「秋介(しゅうすけ)」と名付けました、だそうで。なんかもう、ええ子やなあ耕介、って、しみじみ思いました。おあきちゃんと、「蘭」の世界で幸せに暮らしてね……。
 
高麗屋のシーン。若狭、左近、三吉の三人の、個性のある殺陣がかっこいいだけでなく、やられ役のケモノ一家さんが実に楽しく、さらに、章がオロオロしながらも、健気に左近ちゃんをかばおうとして、びっくりした左近ちゃんに手を振り払われたあと、逆にかばわれたり、若狭とこそこそ(おそらく左近ちゃんの)話をしたりと、見所が多すぎて、目が足りない! 
 
そのせいで見逃してしまったんですが、三吉の殺陣は、実は左近ちゃんの完全コピーなんだそうで。一度見た動きを完コピした三吉と、それに気づいて一気に警戒心をふくらませた在天組、という構図だったそうです。設定細かい! これ、聞いたのが、千穐楽後の打ち上げの席だったんで、確かめられず。めちゃくちゃくやしかったです。扇子の振りとか、似てるなとは思ってたけど、完コピとは。うう、あれだけリピートしたのに!
 
このシーンで、まず若狭が全員とやりあって腕を確かめてから、左近に交代、その後、瓦版屋があらわれて警戒、「在天の姫」発言あたりで左近が後ろに引いて若狭が前に出て……と、常に目線を交えながら、あうんの呼吸で動いている在天の二人が好きで、これを見せてもらえたら、饅頭空中斬りしても、五重塔の上から叫んでても、ちゃんと若狭だから大丈夫、と思えました(や、あの二階席のシーン好きですけど!)。
 
実は、台本を見て、担当編集者さんとアレコレやりとりしていたときに、いちばん悩んだのが、若狭のことなんですね。おわかりのように、若狭のキャラは、原作との違いが大きいです。しかも、初稿の若狭は、決定稿よりもさらに変わったひとで、せめてこれだけでも直してもらうべきじゃないかと、私より担当さんのほうが強く主張されたりして。私はもう、「演出家がやりたいんだったら……」みたいな気になってたんですが、さすが、クリエーターをコントロールする方向でのプロとなると、違いますね。いや、ホント、今思えば、そういうことなのかな。プロとしての領域の差。
 
なので、私自身も、あらためて、「そうか、このキャラは私だけのものじゃなくて、読者さんの大事なキャラにもなっているかもしれなくて、今、それを守れるのは私だけかもしれなくて……」なども考えて。でも、脚本の台詞をいくら直してもらったところで、最終的に、演出家の錦織さん、役者の荒木さんがどういう役作りをされるかで、百八十度変わるかもしれないし。
 
そういった悩みの過程を経たあとの、トドメの「マイクパフォーマンス」なのでね。もうね。ホントにいろいろ気をもませられまして。本番で、荒木さん演じる若狭が、茶目っ気はあるけど頼もしく誇り高い在天の男になってあらわれてくれたときには、心の底からほっとしたし、喜びました。ホントによかった。
 
ところで、種痘って、1974年生まれで最後なんだそうですね。私はもちろん、受けてるんですが、キャストさんの若者組は種痘を知らない方が多かったそうで、ちょっとカルチャーショックでした。いや、受けてない世代だとは思っていたけど、そこまで身近でなくなっているとは。洪庵先生のおかげだなあ……。
 
オリキャラの瓦版屋さん。佐藤さんの好演のおかげもあって、毎回、客降りも盛り上がって、人気者でした。ラストのあっと驚く変化もかっこよく。
……それでも、やっぱり、どうしてもオリキャラなので、作者としては、他のキャラとは違うところで、いろいろ気になるわけです。
 
私自身のキャラ作りの視点から、もう、絶対にハッキリさせないと落ち着かない、と思ったのが、「ラストの饅頭屋対瓦版屋、二人は、どっちが強いと思って対峙していたのか。相手を斬れると思っていたのか」。私がそういうシーンを書くなら、そこはハッキリ決めてからじゃないと、書けません。
 
なので、あのシーンを何度も見るうちに、「私の世界のキャラなら、そこをハッキリさせてくれ」と思うようになりまして、とうとう、我慢できず、ご両人に聞きました。「相手を、斬りますか? 斬れますか?」。「余計なことするようなら斬るつもりで仕掛けてるんで、何かあったら斬ります。斬れます」と答えたのが、饅頭屋。「斬る理由がないので斬りません」と答えたのが、瓦版屋。「でも、饅頭屋にガチで仕掛けられたら?」とさらに聞いたところ、「その場合は応じるけれど、刀が刃こぼれするくらいまでやりあっても決着つかず、互いに引くと思う」とのこと。……「からみがくどい」原作者ですみませんでした。でも、すっきりしました。荒木さん、佐藤さん、ありがとうございました。あ、ちなみに、それぞれ別の機会におうかがいしたので、互いの答はご存じありません。それぞれのキャラとして、こたえてくださったと思います。
 
ちなみに、オリキャラの生みの親と思われる、演出の錦織さんにも、そういう質問をしてみたんですが、「瓦版屋の必要性」を、舞台転換、演出効果などの観点から専門的に語ってくださいまして、それはもう面白かったのですが、でも、「で、饅頭屋とどっちが強い設定ですか」と重ねては聞けませんでした。舞台的には、あそこは、扇治郎さんが着替えて出てくる間をつなぐ意味合いがあるそうで、それはまあ、大事ですし、常にそういう視点を持つ舞台の方と、小説を作る者との、物語へのアプローチの違いが実感できたことは貴重な体験でしたので、あとは、こちらで脳内保管することにします(^^;)。
 
東京公演の半ば、北翔さんの楽屋にご挨拶にうかがったときのことなんですが。「これが終わっても、続編とかやりたいですね」という話になりまして。「私、うり二つのお兄さんもできます。二役でやりますよ!」と言われたのが、とても印象的だったし、うれしかったです。そっか、そうすれば、本当にうり二つのお兄さんが存在可能になるんだ! 麗しい弓月王になる! 目からうろこでした。これこそ、「さすが宝塚」であり、「さすが、北翔海莉!」ですね。
 
……そろそろ、〆めますね。
でも、その前に。
 
今回の舞台、北翔さんを初め、役者さんのファン、という方が、大勢、足を運んでくださったと思います。原作をご存じない方が、ほとんどだったかと。
私も、演劇ジャンルではありませんが、三十年、愛し続けているひとを持つ身で、そのひとに会うためのチケットをとって、幕が上がるのを待ちわびて……という気持ち、すごく、わかります。
そういう方の何人かと、劇場で少しお話する機会を得て、思いました。
あなたの大好きなひとが、私の作品世界の人物を演じることを、喜んでくださって、本当に、ありがとう。
この出会いがうれしかったのは、私のほうです。
 
 
そして、最後になりましたが。
 
この作品を見守ってくださった、洪庵先生の子孫である緒方家の方々と、和宗総本山四天王寺の方々に、篤く御礼を申し上げます。
洪庵先生と、四天王寺さん、この偉大な人物、偉大な寺院への尊敬の念が、この作品の基です。
本当にありがとうございました。
 
 
改めまして。
「蘭 緒方洪庵・浪華の事件帳」に関わってくださったすべての方に。
私の作品を選んで舞台にしてくださった、松竹株式会社のみなさま。
演出家の錦織一清さま、脚本の松田健次さま、音楽の岸田敏志さま。
そのほか、すべてのキャスト、スタッフのみなさま。
劇場に足を運んでくださった、みなさま。
 
原作者として、心より、御礼申し上げます。
ありがとうございました。
 
舞台「蘭」、大好きです!
 
 

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